【特集コラム⑤】動物病院で認められる犬の歯・口腔の病気について

2018/08/24

犬の口腔内トラブルで最も多いのは“歯周病”ですが(歯周病については【特集コラム③】ペットのオーラルケア http://news.jprpet.com/news/detail/10188/ をご覧ください)、それに次ぐ歯や口腔の疾患には次のようなものがあります。また、全身性疾患の原因が実は口腔内にあった、という症例も最近増えてきています。

1.歯の破折(はせつ)

歯が欠けたり折れたりすることで、原因としては蹄や骨・皮で出来たガムや、硬い玩具などを咬むことで生じます。発症部位で最も多いのは上顎第四前臼歯(図1の施術している歯)で、犬歯、下顎第一後臼歯が続きます。(上顎第四前臼歯で66%、上顎犬歯7.5%、下顎犬歯5%、下顎の第一後臼歯5%という報告があります)
治療は主に歯の“保存療法”か“抜歯”になり、破折の程度によって予後と治療は異なってきます。

① 保存療法
歯髄(歯の真ん中を通る神経)の露出(露髄)の有無によって治療選択は異なります。露髄がなく、歯の表面であるエナメル質ないしは象牙質のみの破折であれば欠損した部位の保存修復を行います。露髄がある際は、生じた時間経過により歯髄の温存ないしは歯髄の抜去(抜髄)(図1参照)を選択しますが、イヌの場合、破折してからの経過時間が不明瞭なことが多く、放置された歯髄は細菌感染を起こしていることもあるため、そのようなときに歯髄の温存はできません。
抜髄治療は特殊な器具を用いて歯髄の除去を行い、根管の充填を行います。(図2参照)歯を抜かずに温存できるため、イヌにとっても飼主にとっても非常に大きなメリットがありますが、この治療は専門的な知識と器具、テクニックが必要なため、動物歯科を専門にもっている病院を探す必要があります。

② 抜歯
歯根のいちばん深いところが化膿してしまった場合など、歯の温存が困難な場合は抜歯を行います。歯周病などでぐらつきのある歯は比較的簡単に抜けますが、破折歯は歯肉としっかりくっついていることが多いため処置は大変です。専用の器具を用いて抜歯を行いますが、前臼歯の根は3本もあるので、歯を割ってから抜くこともあります。(図3参照)抜歯後は周囲の歯肉を寄せ集めて根があった穴をふさぐように縫い合わせます。(図4参照)
歯を抜いてもご飯は食べられますか? という相談を多く受けますが、その答えはイエス、です。歯を抜いて縫い合わせたあとは、組織で埋められ固い歯茎のようになるため、たとえ全ての歯を抜いてしまっても普通にドライフードでもウェットフードでも食べることができます。食べながら少しフードをこぼすこともありますが、もともとイヌはフードを咬まずに飲み込んでいることも多いためにあまり支障はありません。逆に、痛みを残したままのほうが食欲や生活レベルの低下につながりますので、残せないと判断した歯は積極的に抜いたほうが愛犬のためになるのです。

【図1】抜髄:歯髄をファイルという器具で抜去しています。

【図2】根管の充填治療が終わったらかぶせものをして終了です。

【図3】上顎第四前臼歯を分割している様子。

【図4】抜歯後は縫合を行います。

2.口腔内腫瘍

シニア期になると腫瘍疾患の割合が増え、口腔内にも腫瘍ができることがあります。口腔内に発生する腫瘍は扁平上皮癌、線維肉腫、悪性メラノーマ、棘細胞性エプーリスなどがあります。腫瘍の治療は単純に塊だけを切除するだけでは済まないことが多いため、より早期の発見と診断・治療が必要です。治療には外科手術以外に放射線治療・局所的な化学療法剤投与などがあり、これらを組み合わせることもあります。

3.全身性疾患との関連

ヒトでは歯周病と全身性疾患の関連について非常に多くの報告があります。心臓疾患、肝臓病、腎臓病、糖尿病、アルツハイマーなど非常に多くの疾病に歯周病の関与が報告されています。イヌにおける報告はまだ少数例ですが、僧帽弁閉鎖不全症、肝臓疾患、糖尿病などとの関与報告もあり、歯周病の治療が全身のケアにつながることが今後も期待されています。


~ まとめ ~

 ペットオーナーによる自宅でのデンタルケア(歯みがき)の重要性はもう周知されていることですが、それは歯周病や口臭を予防するためだけではありません。毎日口の中をよく観察し、何か異常がないかチェックすることが、さまざまな病気を未然に防ぐことにもなるのです。


町田森野プリモ動物病院
院長 三浦貴裕 

JPR

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