【特集コラム③】ペットのオーラルケア ~口臭の原因と対策~

2018/08/10

ペットの「口臭」は、ペットが敬遠される原因になるばかりでなく、健康上も問題となります。原因をきちんと理解し、対策を講じられるようにしましょう。

口臭の原因

国際口臭学会によると、人の口臭のおよそ85~90%は口腔から発生するといわれています。犬や猫においても口臭の最も一般的な原因は歯垢・歯肉炎などによる口腔内の疾患です。
では、口腔内の疾患がどのようにおこるのかを見てみましょう。

歯の表面に付着した細菌はプラークと呼ばれる塊を形成し、数日以内に歯石の元となる石灰化を引き起こします。プラークや歯肉炎が進行すると、歯周炎に進行して、歯周ポケット(歯と歯茎がはがれてしまった状態)が形成されます。歯周ポケットまたは舌(背側)に存在する細菌が食べかすや歯垢やタンパク質を分解することによって口臭の主な原因となる物質(揮発性イオウ化合物)を産生します。これが口臭の正体なのです。
揮発性イオウ化合物は口腔内の悪臭に影響を与えるだけでなく、歯周病の原因ともなります。歯周病とは、歯を支えている歯肉(歯茎)や歯を支えている骨(歯槽骨)、歯の周りの靭帯(歯槽骨と歯の間を結んでいるもの)、セメント質(歯の根の部分を覆っているもの)などの歯周組織が細菌によって破壊される病気です。このようにペットの口の中の異常が口臭に結びついているのです。

■猫に多い歯肉炎・歯周病
歯肉炎の発生は犬に比べて猫で多いと言われています。特に屋外で生活している猫に多く、1歳未満の若い猫が歯肉疾患にかかっていることも少なくありません。猫の場合、歯肉疾患の多くはカリシなどのウイルス感染が原因となり、ウイルスによってダメージを受けた歯肉に形成された歯周ポケットに細菌が蔓延ることが原因となります。
また、オーラルケアをしていない3歳以上の猫の80%は歯周病になっていると言われています。口腔内のプラークにおける細菌は腎臓を通じて除菌されますが、この時に細菌が腎臓からの排出に障害をもたらすと考えられており、それが猫が10歳を過ぎると慢性の腎疾患や心疾患などの罹患率が増えてくることと関係があるのではないかと言われています。

■ペットの口腔治療とは
歯周病のステージによって治療が変わります。初期のステージ(早期の歯肉炎)であればスケーリング処置(歯に付着したプラークや歯石、その他の沈着物を器械で除去する処置)が効果的かもしれません。しかし、歯槽骨(歯を支えている骨)に炎症が波及し、重度の歯周病に進行してしまうと、歯を抜く処置が必要となることもあります。
また、抗生物質は歯周病と口臭を引き起こす細菌を破壊するのに効果的かもしれません。錠剤が飲ませられない場合は、殺菌効果のあるスプレータイプの消毒剤を処方されることもあります。いずれにしても、動物病院で口腔内の状態をしっかりと診てもらうことが大切です。

予防対策

「プラーク・コントロール(plaque control)」という言葉は、歯ブラシや歯磨きペーストのCMでもよく使われ、一般的になってきました。ペットの口腔疾患を予防する上でも大切なのはこの「プラーク・コントロール」です。プラーク・コントロールとは、正しい歯みがき、正しい食生活により歯茎の健康を取り戻すことです。確かに犬や猫に歯磨きを習慣にさせることは簡単ではありません。しかし、歯ブラシのケアが困難なら、指サックやデンタルガーゼなどを使って歯や歯茎の表面をこするだけでも違いが出てくるものです。

歯ブラシの習慣は仔犬・仔猫の時期につけるとよいでしょう。人間でいう「幼稚園」程度の年齢であればルーチンワークとして躾けることが可能です。ところが残念なことに、歯磨きがいくらうまくできたとしても、歯石や歯垢を「つきにくくする」だけで、完全に取り除くことはできません。
日頃のプラーク・コントロールに加え、処方食や歯科用デンタルガムなど口腔衛生のトータルケアが必要となります。処方食やデンタルガムは歯の表面に付着するプラークや歯石を効果的に減らしてくれることがわかっています。デンタルケア用の処方食には、粒が特殊な構造をしており、犬や猫が噛んだ時に歯の表面を機械的に擦る効果が期待できるものもあります。日々の食事の中で、歯垢や歯石の付着を緩和し歯肉炎を減らすケアができるということです。その子にあったデンタルケアを正しく選択するため、獣医師に積極的に相談してみるとよいでしょう。

口腔疾患以外の口臭

先ほどお話しした通り、ペットの口臭の原因のほとんどは口腔内の異常によるものです。しかし、口の中以外の疾患を示していることもあるのです。発生頻度はあまり多くありませんが、ほかに考えられる原因としては次のようなものがあります。
・代謝性疾患(糖尿病、尿毒症)
・呼吸器疾患(鼻炎、副鼻腔炎、肺がん、など)
・胃腸疾患(巨大食道、腫瘍、異物)
・口周囲の皮膚疾患(口唇皺壁膿皮症)
・食事内容(臭いの強い食品成分、食糞)
・非-歯周病性口腔疾患(歯科矯正、咽頭炎、扁桃腺炎、腫瘍)
・異物、外傷、開放骨折、感染症(細菌、真菌、ウイルスなど)
・自己免疫疾患、好酸球性肉芽腫症候群              など

■まとめ
ペットにおいて口臭は一般的問題ですが、口臭をチェックすることはペットの健康状態を把握するうえで非常に大切だと言えるでしょう。口腔内疾患は口臭がひどくなるまで飼い主さんが気付かないことも多く、特に歯周病は「サイレント・アーミー(沈黙の病気)」とも呼ばれ、痛みなどの自覚症状が出るころにはかなり進行してしまっていることもあります。口腔内のケアはADL(日常生活動作:Activities of Daily Living)を高め、QOL(生活の質:Quality of Life)を向上させます。これを機に大切なペットの口の中をチェックしてみてはいかがでしょうか?



町田森野プリモ動物病院
院長  三浦貴裕  

JPR

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